昔、医者だった人を英会話講師として採用し、一緒に仕事をさせていただいたことがあります。
その方は東アジア出身で、開業医として多くの患者を診ていました。そんなキャリアをある事情で全て放棄し、0から日本で生活をすることに決めた外国人でした。独り者ではなかったんですよ。家族同伴での移住でした。
たとえ経験豊富な医師でも、日本では単なる一外国人。何の生活の保証もなく、また医師の免許も日本で通用しません。また、日本語もできなかったので、国家試験のための勉強は、気が遠くなるプランだった。日本語の分かる私でも医学関係の文献の日本語は何て書いてあるかわからないし。(笑)
だから、入国前から「医師」とは別の人生を歩むことに決めていたようでした。
日本で職を探している時に、私のスクールの「英会話講師募集」を見つけて、縁あって私が面接をさせて頂いた。
彼の履歴書を拝見させてもらった時、「a physician(医師)」とあるので、「怪しいのがきたな〜」と思ったものです。「ヤブ医者」か、もしくは「偽装か?」(苦笑)
面接中、色々な話題について語り合っていると、「面白い!」と思ったんです。
また、「本物の医師だ!」と。「偽装じゃない(笑)!」
彼の英語は第1言語ではありませんでしたが、イギリスやアメリカなどの諸外国でも診療経験があり、英語力は全く問題なし。医療関係の英語を学ぶ必要がある人や論文チェックが必要な生徒には、とても喜んでもらえた。
そんな彼の人となりや、考え方にとても共感ができ、また私のスクールに対する思いにも賛同してもらえ、すぐに握手を交わすことになりました。
指導力、コミュニケーション能力について
医師とは全く異なる職種である「英会話講師」。指導力とコミュニケーション能力が講師として大切な要素です。
これがないと、誰からも信頼されません・・・・。
彼の授業中の様子や、子どもの生徒やその父兄、また社会人の生徒との会話で見えたのは、
#1:生徒の学習態度や英語能力をよく観察していた。
#2:生徒ともいろいろな話題で打ち解けながら、楽しく学んでいた。(彼の日本語、また生徒の英語も片言だった)
その結果、生徒にとって、英語の学習が楽しく感じていたので、英会話力も伸びていた。
彼が指導する幼児から社会人、初心者の生徒まで、片言の日本語での指導にもかかわらず、とても信頼を得ていました。
他の講師も当然、同じ考え方、行動をしていると思う。でも何か他と違うな〜と、私自身感じていたんですね。
また、彼からすごく学べるものがあるな〜と思っていて、プライベートの時間でも彼とよく会っていました。
ある時、彼に質問したことがあります。
「医師と英会話講師の仕事で共通しているものは何ですか?」と。
すると、
「診断したり、病気に対するアドバイスを与える前に、よく患者のことを質問し、相手の生活様式、考え方を理解して、薬や処置をしたりするのは当たり前。処方箋をあげても、患者自身が医師である私の助言を聞いてもらい、言われた通りにしてもらわないと、完治できるものできなくなる。その点、講師も生徒に教える前に、やることがたくさんある。」と。
別の医師から、患者との診察について話を聞いた時、患者からヒアリングや診察をする前、つまり患者が診察室に入った瞬間から、その人の歩き方、体の動かし方、仕草など、ほんの僅かな体からのサインを見逃さない、って言っていたな。
「英語を指導すること」、「英会話上達のサポート」が私の主な仕事だけど、「教える」ことだけに集中して、生徒のことを理解していない、全く行き当たりばったりの指導やスクール運営はしたくないな。自戒も含めて。
「洞察力」ってものが何なのか、少しずつ理解した瞬間でした。
WOW!
安田 英承
最新記事 by 安田 英承 (全て見る)
- 英語が話せるための教材の選びの心得 - 2024-04-12
- 英語で質問できる力を鍛えることは大切 - 2024-03-29
- 日本人のレベルに合わせた英語テスト:TOEIC - 2024-03-19